昔は剣道も居合道も抜刀道も、刀を扱う武術として三位一体といえるものでした。しかし時代とともに変化して、木刀、竹刀の剣道と刀を使う居合道とは別々に教えられるようになりました。
さらに刀を使って稽古する居合道にあっても、形稽古のみが主となって次第に斬る稽古が軽んじられる方向に進み、殊に第二次世界大戦の敗戦後は、「斬る」ことはまったく押し込められてしまいました。こうした過去の流れを見直し、刀を扱う武術という原点に帰り、忘れ去られてしまった「斬り」を復活させ、斬ることを稽古の中にいれていこうというのが今日の抜刀道であります。
もちろん今日にあっては、斬る対象は主として巻藁です。しかし、抜刀道はあくまでも武道です。ただ藁を斬る藁切りではなく、刀の切れ味を試すための試し斬りでもありません。また斬るだけの技をみせる曲芸斬りでもありません。ただ斬れればいいというのではなく、その所作はあくまで武道の理合いに適ったものであるべきです。常に自分の身を守り、敵を制するものであることが要求され、それには剣道の体さばきに習って斬ったり、居合道の形を応用して斬ったりすることが多くなります。どの場合でも斬ることだけに心を奪われて大きく体勢を崩すことなどは許されません。武道として、無駄な力を使わず、無理な動作を避け、無意味な所作を排し、できるだけ効果的に正確な動作で斬る技術を追求し、これを習得することを目標としているものであります。